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Well-being Conference 2023を開催しました【イベントレポート】

健康経営に取り組む各企業の一助となることを目的とし、健康経営研究会主催・三井不動産共催で「Well-being Conference2023」を2023年8月4日に開催しました。

 

2020年からスタートし、第三回目  となる今回は『人的資本経営で問われる健康経営 の深化~健康経営の実行力を上げる~』というテーマのもと、経済産業省や有識者、実践企業と様々な立場のゲストをお迎えし、健康経営における最新トピックスや課題についての基調講演、パネルディスカッションを実施しました。

 

 

<当日のプログラムとご登壇いただいた皆様>

 

~第一部:基調講演~

講演1.『健康経営の今後の展望』

経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐 山崎 牧子 氏

 

講演2.『人的投資としてのオフィス環境設備』

国立大学法人千葉大学 大学院工学研究院創成工学専攻 建築学コース 准教授 林 立也 氏

 

講演3.『経営者・管理職のリテラシーを上げる』

特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫氏

~第二部:パネルディスカッション『企業事例紹介』~

旭化成(株)富士支社 環境安全部 労働安全グループ グループ長 河野 岳信氏

 

(株)イトーキ スマートオフィス商品開発本部 ソリューション開発統括部 ソリューション開発部 部長 藤田 浩彰氏

 

三井不動産(株)ビルディング本部 健康経営推進担当 統括 上柿 愛夕氏

 

 

カンファレンスが行われたのは、開放的な空間が心地よい東京ミッドタウン八重洲のイベントスペース。会場とオンライン配信を含め、事前にお申込みいただいた方々は約600 名と、非常に多くの方々にお集まりいただきました。

 

特定非営利活動法人健康経営研究会理事長の岡田邦夫氏の「我々は『健康経営資本』という考え方を新たに提言します。少子高齢化が進む日本において、人的資本をいかに作り上げていくかは極めて重要な課題であると考えています」というメッセージのもと、カンファレンスはスタートしました。

講演1.『健康経営の今後の展望』

 

経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 課長補佐を務める山崎牧子氏からは、健康経営に取り組む企業の動向や健康経営優良認定制度における今年度の改定ポイント、健康経営が今後目指す姿についてのお話がありました。

2022年度に健康経営優良認定制度に申請した法人数は約1万7千社に上り、経営のトップ自らが健康経営を推進する企業の数が急速に拡大しているといいます。「多数の企業から健康経営への取り組みが、従業員の活力活性や健康増進を促し、ひいては組織自体の活性化、業績や企業価値の向上につながっているという実感のこもった声を受け取っています」と山崎氏。今後目指す姿として「『日本経済を支える基盤として健康経営という考え方が当たり前となる社会』を目指していきたい。それを実現するための施策の柱として①健康経営の可視化と質の向上②新たなマーケットの創出③健康経営の社会への浸透・定着を置いており、取り組みの効果検証や健康経営実践企業とそれを支えるサービス事業者をマッチングできるような仕組みづくり、中小企業への普及拡大に力を入れていきたい」とお話くださいました。

講演2.『人的投資としてのオフィス環境設備』

 

国立大学法人千葉大学 大学院工学研究院創成工学専攻 建築学コース 准教授 林 立也 先生は、人的投資としてのオフィス整備の考え方や、オフィスのウェルネス性評価ツールの開発、エビデンスに基づいたウェルネスオフィスの便益についてご紹介くださいました。

投融資、企業経営、ワーカーとそれぞれの立場から健康性と快適性が高く、生産性の上がるウェルネスオフィスの需要が高まっているという社会的背景を踏まえながら「オフィスの環境整備は不健康の回避だけでなく、健康増進と生産性の向上を達成するために貢献できる。人事戦略とオフィス戦略の一般的な目的は酷似していることから両者を連動させて考えることが人的資本経営においては有効である」と林先生はおっしゃいます。ウェルネス性評価ツール導入で見えてきたウェルネスオフィスの便益として、オフィスの性能が高くなるとプレゼンティイズムが下がる、空間内装は知識創造と関係が強いといった興味深いエビデンスも交えながら、建物において人の行動を活性化させるためには「場所×プログラム×ファシリティを三つ巴で考えることが重要である」との考えを述べられました。

講演3.『経営者・管理職のリテラシーを上げる』

 

特定非営利活動法人健康経営研究会 岡田 邦夫先生は、『管理職は健康経営の推進者である』というお考えのもと、労働災害に関する実際の判例を交えながら、経営者や管理職がリテラシーを高めることの重要性についてご説明くださいました。

 

岡田先生は「管理職の担当者が労働法や安全配慮履行補助者としての十分なリテラシーを持ち合わせていなかったために、労働者から損害賠償請求が起こるといったケースが多くの判例から明らかになっている」と言います。加えて、令和4年度の精神障害における労災申請の要因のトップが上司からのパワーハラスメントであったという事実も踏まえながら「上司と部下の問題が労働災害において、極めて大きな課題である。人的資本経営においては、従業員の健康を守り職務適性と適正配置で働きやすい職場づくり、生きがいのある仕事を提供していくことは企業が成長していく上で極めて重要であり、そのためには管理職の人たちがいかにしてリテラシーを高め、部下の健康を守り、育成に当たるかが重要になってくる」とお話くださいました。

企業の取り組み事例から見る健康経営の未来とは?

 

第二部では、ファシリテーターとして岡田先生に再びご登壇いただき、先進的な取り組みを実践する3社の企業代表によるパネルディスカッションが行われました。

◆ (株)イトーキ スマートオフィス商品開発本部 ソリューション開発統括部 ソリューション開発部 部長 藤田 浩彰氏

 

(株)イトーキ は、2017年2月に健康経営宣言をすると同時に、社員の自己裁量を最大化し、個人と企業双方のハピネスを実現させながら生産性を向上させるため 『XORK Style(ゾークスタイル)』という新しい働き方へと変革するための取り組みを開始。2018年には日本髙島屋三井ビルディングへ移転、 個人がもっとも生産性の高い場所を選んで働くActivity Based Workingという考え方を導入しました。オフィスは活動の目的に合わせて使い分けができるようデザインされ、心身の自由を高めるために、水・光・食物・心といった観点からも様々な工夫がなされています。年に一度の従業員アンケートでは、❝オフィスは生産性の高い仕事ができる❞と解答した従業員の割合が移転前は32.4%だったのに対し、2023年は76.7%に倍増。「数値として効果が表れるまでにはタイムラグがあるものの、楽しさや自信といったオフィスに対する肯定感も高まっている」と藤田さん。2021年からは同社が開発した個人や組織の業務パフォーマンスを測定するツール Performance Trailを導入 、健康経営戦略マップの策定にも活用しているといいます。「今後はIoTのデータを分析・収集を行うことで、オフィスのレイアウトと人の生産性の関係を明らかしにていきたい」とお話くださいました。

◆三井不動産(株)ビルディング本部 健康経営推進担当 統括 上柿 愛夕氏

 

三井不動産(株)では『新しい価値を想像しつづけるための原動力は人材という資産である』という考えのもと、その基盤となる従業員の健康保持・増進に取り組んでいるそう。生活習慣の改善については、自社開発アプリの『&well』を活用。❝仲間と楽しく参加できる豊富なイベント❞と❝体系化したヘルスリテラシー向上のためのコンテンツ❞を柱とし、自社はもちろんのこと対外的にも健康支援サービスとして提供を行っています。同社従業員の健診結果データからは、&wellアプリを日常的に使用している群、年3回実施のウォーキングイベント参加している群において、運動習慣の定着や食習慣の改善が見られたといいます。上柿氏はお話の最後に「これからも街やアプリといったプラットフォームを活用し、多様な関係企業様と連携しながら健康経営を推進していきたい」と述べられました。

◆旭化成(株)富士支社 環境安全部 労働安全グループ グループ長 河野 岳信氏

 

富士山の麓に位置する旭化成(株)富士支社は、1,500人ほどの従業員が在籍。幅広い業種と職種に携わる人が働いていることから、ライフスタイルも多岐に渡るそう。同社では、健康経営として主にメンタルヘルス、メタボ、生活習慣病、喫煙、睡眠についての取り組みを実施しています。2021年11月からは『&well』サービスを導入し、職場でのグループ単位ごとに、取り組みの管理を担うリーダーを配置。従業員が自主的に情報発信を行ったり、PDCAを回す仕組みを取り入れたことで、導入当初は300人だった利用者が2023年7月時点で800人を超える程になったそう。河野さんは「これからも組織単位と個人単位の活動をうまく共存させながら健康経営への取り組みを推進したい」とお話くださいました。

パネルディスカッションの終盤、岡田先生から「健康経営において、アウトカムを求める傾向が強まる中で、次の課題としてお考えのものは何ですか?」という問いが登壇者に投げられました。それに対し「従業員一人一人が健康に対する意識を強く持ちアクションするだけでなく、自然と笑う、立つといったように、意識に頼らずとも健康によい行動をしているといったオフィス環境が重要になってくる」と藤田氏。上柿氏も「出社時などに自分の健康状態が可視化されるなど、自然にきっかけが得られ、行動に移せるようデータの取得や活用を進めていきたい」と言います。

河野氏は「経営者と管理職をしっかりと巻き込んで組織としての活動を継続し、健康経営を文化にしていきたい。すぐに実を結ばないことをストレスに感じるのではなく、少し長い目でアウトカムを出していくといった考え方を啓発したい」と回答されました。

岡田先生は最後に「経営者の方がトップダウンで始める健康経営が、最終的には全従業員からのボトムアップとなり、多くの方がウェルビーイングの道に繋げていくことが非常に重要な課題であると思います」という言葉で会を締め括られました。